なぜ人はなかなか決められないのか?
「優柔不断で時間を無駄にしてしまう」──多くの人が口にする悩みです。仕事で大事な選択を迫られるとき、プライベートで進路を決めるとき、あるいはちょっとした買い物ですら迷ってしまう。決められない状態が続くと、心のエネルギーが削られ、チャンスを逃し、後悔を積み重ねてしまいます。心理学の研究によれば、人は1日に約3万5000回もの意思決定をしているといわれます。そのうちの多くは無意識の小さな決断ですが、重要な場面で「決められない」ことが積み重なると人生の質そのものが変わってしまうのです。
決められない理由は、性格が弱いからでも意志が足りないからでもありません。原因のひとつは、脳の「実行機能」と呼ばれる能力の働き方にあります。さらに、基準や目的があいまいであることも大きな要因です。つまり、決断力は持って生まれた才能ではなく、鍛えることができるスキルなのです。
結論:小さく、速く、基準を持って決める
ではどうすれば決断力を高められるのか。答えはシンプルです。「小さく」「速く」「基準を持って」決めることです。大きな決断をいきなり迫られると、人は尻込みしてしまいます。しかし、日々の小さな決断を即断即決することで脳の筋トレができます。例えば、昼休みに読む本をさっと選ぶ、今日のタスクの優先順位をひとつだけ即決する、週末の予定を一つだけ確定させる。こうした小さな積み重ねが、重大な局面での決断力につながっていくのです。
大事なのは「基準」を持つことです。基準がなければ迷い続けるしかありません。自分にとって大切なこと、譲れないことを明確にする。すると選択肢を照らし合わせる物差しができ、迷う時間が格段に減ります。決断力の本質は、完璧な選択をすることではなく「選んだ後に進めるかどうか」なのです。
心理学の実行機能と『決める技術』
心理学でいう「実行機能」とは、人が目標を達成するために行動をコントロールする能力のことです。ワーキングメモリ(情報を保持し処理する力)、認知的柔軟性(状況に応じて切り替える力)、抑制制御(衝動を抑える力)。これらが鍛えられると、意思決定の質が向上します。つまり「考える→決める→実行する」という一連の流れがスムーズに回るのです。
一方、柳生雄寛氏の著書『決める技術』では、決断を行動に変えるための具体的なフレームワークが紹介されています。「マーケティングの11項目」で決定を具体化し、「マネジメントの3項目」で継続を可能にする。そして何より「決めるとは捨てること」と強調されています。心理学が「脳のOS」だとすれば、『決める技術』は「実用アプリケーション」。両方を組み合わせれば、決断力は性格に左右されない鍛錬可能なスキルだと理解できます。
決断は捨てることから始まる
「何かを決めることは、何かを捨てること」。これは一見厳しい言葉ですが、真理です。優柔不断な人ほど「全部残しておきたい」と考えます。しかし選ばなかったものを潔く捨てることで、選んだものに集中できます。副業を始めたいと考えたとき、ブログ、動画配信、投資など複数を同時に抱えると中途半端で終わります。まずは一つを選んで半年間取り組む。他は完全に頭から外す。この「捨てる勇気」が決断力の第一歩です。
歴史を振り返っても「捨てる決断」は大きな成果を生んできました。豊臣秀吉が天下統一を進める際、短期決戦に集中するために持久戦の選択肢を切り捨てたこと。スティーブ・ジョブズがアップルに復帰した際、製品ラインを大幅に整理し、わずか4つに絞ったこと。何を捨てるかが、何を成し遂げるかを決めるのです。
価値観を基準に持つ
決断ができない最大の理由は「基準がない」ことです。目的があいまいだと、どの選択が正しいのか判断できません。だからこそ、自分の価値観を明確にすることが重要です。仕事、家庭、人間関係、健康、学び、遊び、経済など、9つの分野で「自分にとって優先順位が高いのはどれか」を書き出してみるといいでしょう。すると「何を大切にしたいか」という軸が見えてきます。
価値観が固まると、決断は驚くほど速くなります。たとえば「家族との時間を最優先する」と決めている人は、残業を迫られたときに迷いません。逆に価値観があいまいな人は、いつまでも「どちらが正しいのか」と葛藤し続けます。価値観はあなたのコンパスです。迷う時間を減らすために、自分だけの基準をつくりましょう。
失敗を恐れず巻き返す
決断力の本質は「失敗しないこと」ではなく「巻き返しの速さ」にあります。決断できる人は決めるスピードが速く、失敗したときの修正も速い。だから試行回数が増え、結果的に成功確率が上がるのです。心理学でも「失敗を恐れず小さく試す」ことは行動療法の基本とされています。失敗は避けるものではなく、前に進むための素材なのです。
たとえば仕事で企画を出すとき、完璧に仕上げてから提出するのではなく、6割の完成度で早めに出してフィードバックを受けた方が効率的です。失敗を前提にすれば、行動が軽くなり、修正も柔軟にできます。成功者とは「失敗しなかった人」ではなく、「失敗を素早く学びに変えた人」です。
今できる一手に集中する
人は大きな理想ばかりを見ていると、逆に行動が止まってしまいます。「本を出版したい」と思っても、いきなり完成原稿をイメージしてしまえば重すぎます。大事なのは「今できる一手」に集中することです。今日書けるのは1ページだけかもしれません。それでいいのです。今日の一手が積み重なれば、理想に最短距離で近づけます。
スポーツの世界でも同じです。サッカー選手がW杯優勝を目標に掲げても、日々の練習で「今日はパス精度を上げる」といった一手に集中しなければ到達できません。小さな一手を積み重ねる決断が、やがて大きな夢を現実にするのです。
注意点:即断は無理に決めることではない
ここで誤解してはいけないのは、即断即決が「無理やり決めること」ではないという点です。ときには「まだ決めるべき時ではない」と判断するのも立派な決断です。実行機能を働かせるには、衝動を抑える力も必要です。焦って選んだ結果、取り返しのつかないリスクを背負うのは本末転倒です。
また、決断をすべて一人で背負う必要もありません。影で支援してくれる人の存在を活かすことも重要です。子どもに選択を任せながらも親が安全を守るように、私たち大人も「自己責任」と「周囲の支援」のバランスをとる必要があります。放任と過保護のどちらかに偏るのではなく、その中間にこそ健全な決断があります。
未来の社会で差をつける「決める力」
AIが社会のあらゆる領域に入り込んでいる今、情報の比較や分析は機械が得意とします。しかし「何を目的とするか」「誰のために選ぶか」「その結果に責任を持つか」は人間にしかできません。AI社会では「決められる大人」と「決められない大人」の差がますます広がっていくでしょう。
意思決定のスピードと質は、これからのキャリアや人生に直結します。AIが提示する選択肢を活かせる人は強く、翻弄されるだけの人は取り残されます。だからこそ、心理学の実行機能と『決める技術』を組み合わせた「決断力トレーニング」は、未来への最高の投資になるのです。
まとめ
決断力は性格ではなく、鍛えられるスキルです。「捨てる勇気」「価値観の基準」「失敗からの巻き返し」「今できる一手への集中」──これらを意識するだけで、あなたは確実に変わります。今日から始められる小さな一歩を決めましょう。それが未来の大きな成果に直結します。優柔不断な自分を卒業し、行動できる大人へとシフトする時が、今まさに訪れています。
この記事を書いた人|ミライジュウ
メディア関連企業の業務部長。ラジオ演出30年の経験を経て、
「50代からでも“1円を生む力”は育てられる」と信じて発信中。
毎朝4時起きでランニング・筋トレ継続中。
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