「もっと熱意を込めて話せ」「想いを伝えろ」と言われても、具体的にどうすればいいのか分からず、つい実績や成功体験ばかりを並べてしまったことはありませんか?
実は、人の心を動かし、聴き手の内側に火を灯す「熱量」というものは、あなたの輝かしい成功の中ではなく、むしろ隠しておきたいはずの「弱み」や「葛藤」の中にこそ宿るのです。
今回は、「政治家が選挙に勝つために駆け込むスピーチライター」として知られる千葉佳織氏が提唱する考え方を紐解きながら、真の「熱意」の正体に迫ります。
完璧な姿だけでは、心は動かない
スピーチやプレゼンテーションの場に立つと、私たちはつい自分を大きく見せようとしてしまいます。「これだけの成果を出しました」「こんなに優れたスキルがあります」
確かに、これらは客観的な実績(ロゴス)としては重要です。しかし、千葉氏は「それでは人の心は動かない」と指摘します。
実績だけを並べられた聴き手の心には、ある種の「壁」が生まれます。「この人は自分とは違う世界の、完璧な人だ」と思われた瞬間、心理的な距離が開き、言葉は表面を滑り落ちてしまいます。
人は、自分とあまりにかけ離れた「完璧な存在」に、本当の意味での共感を抱くことは難しいのです。一方で、話し手がふと見せる「自信のなさ」「過去の挫折」「孤独」といった弱みに触れたとき、聴き手はその人間味に触れ、心理的な距離を一気に縮めます。その意外性こそが、信頼の入り口になるのです。
「弱み」をエネルギーに変える「ストーリーの黄金比」
ただし、千葉氏は「弱みをただ嘆くのではなく、伝え方が重要である」とも解説しています。単なる卑下や能力不足に見えてしまっては、熱量にはなりません。
ここで重要になるのが、「弱み」+「決意・成果」のセットで語ることです。
- 悪い例: 「昔は勉強ができませんでした」(単なる能力不足に見える)
- 良い例: 「勉強はできませんでした(弱み)。でも、違う場所で挑戦しようと弁論を始め(決意)、全国優勝できました(成果)」
このように、弱みを起点として、それをどう乗り越えようとしたかというプロセスを語ることで、かつての弱みは「努力の背景」へと昇華されます。聴き手は、あなたの成功そのものではなく、その「泥臭い這い上がりのプロセス」にこそ熱量を感じ、納得感を抱くのです。
世界を動かした「弱さ」の事例
世界的に大きな影響を与えた人々もまた、自らの「脆さ」をさらけ出すことで聴き手の心に火を灯してきました。
- J.K.ローリング(『ハリー・ポッター』著者)
2008年、ハーバード大学の卒業式で彼女が語ったのは、輝かしい成功ではなく「自分がいかに惨めな失敗者だったか」でした。「ホームレスにならない程度に最も貧しい状態だった」というどん底の経験。しかし彼女は、「そのどん底が、人生を再建するための強固な土台になった」と続けました。この極限の自己開示が、エリート学生たちの心に「失敗を恐れない真の熱量」を宿らせたのです。 - ハワード・シュルツ(スターバックス元CEO)
経営危機の際、彼は全米の店長を集めた会議で、自身の「恐怖」と「責任」を涙ながらに語りました。「今のままでは会社が壊れてしまう、助けてほしい」と、リーダーとしての無力さを隠さずに吐露したのです。トップが「完璧な盾」を捨てて弱さを認めたとき、周囲の人間は「この人を自分たちが支えなければならない」という猛烈な当事者意識を持って動き出しました。
信頼の三層構造:エトス・パトス・ロゴス
この「弱みから始まる熱量」は、紀元前から伝わる説得の三要素「エトス・パトス・ロゴス」とも深く合致しています。これは、人を説得し動かすためには3つの要素が重要だとアリストテレスが述べているものです。
「エトス、パトス、ロゴス。この順番に注意してほしい。まず人格があり、次に人間関係があり、それから自分の言いたいことを表現する。」(スティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』より)
アリストテレスが提唱し、コヴィー氏が再定義したこの3要素は、以下の優先順位で成り立っています。
- エトス(Ethos):人格・信頼
「まず人格があり」という土台。弱みを正直に開示する姿勢は、話し手の誠実さを証明し、「この人の話なら聴く価値がある」という信頼を築きます。 - パトス(Pathos):共感・人間関係
「次に人間関係があり」というフェーズ。弱みをさらけ出し、痛みを共有することで、相手の感情に深くコミットし、心の扉を開きます。 - ロゴス(Logos):論理・表現
「それから自分の言いたいことを表現する」段階。最後に、熱意を具体的な理屈で裏付けます。
多くの人は真っ先に「ロゴス」に飛びつき、理屈で攻めようとします。しかし、エトスとパトスという土台がない正論は、相手に反発心を生むだけです。この「順番」を守ることで、初めて言葉に「体重」が乗るのです。
結びに:あなたの「弱み」は、誰かの「希望」になる
「熱量を感じる」とは、聴き手があなたの言葉に「体温」を感じ、その奥にある「ストーリー」を確信した状態を指します。
もしあなたが、今何かを伝えたい、誰かを動かしたいと願うなら、自分を立派に見せるための鎧を一度脱ぎ捨ててみてください。あなたが抱えるコンプレックス、過去の失敗、今の不安。それらを誠実に、そして「それをどう変えていきたいか」という決意と共に語るとき、あなたの言葉にはかつてないほどの説得力が宿ります。
あなたの弱みは、決して恥ずべきものではありません。それは、誰かの心に火を灯すための、世界に一つだけの燃料なのです。
この記事を書いた人|ミライジュウ
メディア関連企業の業務部長。ラジオ演出30年の経験を経て、
「50代からでも“1円を生む力”は育てられる」と信じて発信中。
毎朝4時起きでランニング・筋トレ継続中。
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