「伝えたのに伝わらない」は、抽象と具体のズレから生まれる
「ちゃんと説明したのに、なんで伝わらないんだろう?」
ブログでも、プレゼンでも、日常の会話でも。そんなもどかしさを感じたことはありませんか?
一方で、「あの人の話はなぜかスッと入ってくる」という人もいます。何が違うのか。それは“知識の量”ではなく、“説明の仕方”にあるのかもしれません。たとえば、セミナーで「これはエンゲージメントの問題ですね」と言われたとき、「つまり何をすればいいの?」と感じることもあるでしょうし、逆に「今期のリーダーはメールが雑で…」という話から、「それってチームへの愛着が弱まっていることじゃ?」と捉え直すこともある。
このように、言葉が“抽象的すぎてわからない”とか、“具体すぎて核心が見えない”と感じる瞬間には、ある“共通したズレ”が起きています。
実はそのズレ、「抽象」と「具体」の往復がうまくいっていないことが原因だとしたらどうでしょう?
『具体⇔抽象トレーニング』(細谷功)では、「抽象化と具体化の思考」が、現代における最強のスキルのひとつであると説かれています。
ゼロイチ・スタジオでも情報発信・教える仕事・副業設計などで何度も直面してきたこの課題。だからこそ今回は、“伝わる人になる”ための根本スキルとして「抽象⇔具体」の思考法を取り上げたいと思います。
「具体すぎる説明」と「抽象すぎる話」の、どちらも伝わらない理由
私たちは日常的に、「もっと具体的に説明してほしい」とか「その話、抽象的すぎてよくわからない」といった言葉を交わしています。けれど、その指摘は本当に「正しい伝え方」を教えてくれるでしょうか?
たとえば、ある会議でAさんがこう言いました。「この部屋、片付けておいてください」
それに対してBさんが「もっと具体的にお願いします。本はどこに? お皿は? 文房具は?」と返す――このやりとりは、細谷功さんの著書『具体⇔抽象トレーニング』でも紹介されています。
逆に、Aさんが最初から「本は本棚、お皿は食器棚、文房具は総務部へ…」と延々と具体的に語ると、今度は「で、つまりどうすればいいの?」とBさんがイライラしてくる。
この例が示しているのは、抽象だけでも、具体だけでも伝わらないということ。そして、その“行き来”こそが抜けてしまっているケースが多いのです。
本書ではこのような状態を「抽象病」と「具体病」として紹介しています。
- 抽象病:ベストを尽くす、徹底的にやる、適材適所に配置する──ような、理想論やスローガンばかりで、行動が見えない
- 具体病:言われた通りにしか動けず、状況に応じて応用できない。説明が“やたら細かい”が本質が見えない
この2つの病は、どちらかが優れているのではなく、「どちらも単独では不十分」であるという点で共通しています。そして、それがコミュニケーションの“ズレ”として表面化しているのです。
つまり、私たちが「伝わらない」と感じるとき、それは説明の技術以前に、思考の次元(抽象⇔具体)を往復できていないことが最大の原因になっている可能性があるのです。
では、どうすればこの“ズレ”を減らし、「伝わる人」になれるのでしょうか?
情報の“量”ではなく、“縦軸”の往復が思考を深くする
多くの人が「伝える力」と聞くと、語彙力や論理性、話の構成、資料の質などを思い浮かべるかもしれません。もちろん、それらはすべて重要です。しかし、それらがどれだけ揃っていても、「抽象と具体の往復」ができていなければ、話はどこかで空回りし始めます。
本書『具体⇔抽象トレーニング』では、人間の知的能力を「横」と「縦」の2つの軸で示しています。
- 横軸は「知識や情報の量」
- 縦軸は「抽象度の高さ=思考の深さ」
このモデルでは、情報や経験が増えるだけでは「賢く」なれないとされます。むしろ、その情報を“どう整理し、どう再構成するか”という、抽象化と具体化の力がものを言うのです。
たとえば、「片づけて」という言葉は抽象ですが、その裏には無数の具体的行動が含まれています。抽象的に一言で語れるということは、その中に構造化された具体の理解があるということ。だから、抽象的に語れる人は本質を捉えているとも言えるのです。
一方で、具体の言葉しか使えない人は、毎回ゼロから説明しなければなりません。「片づける」と言えずに、「本を本棚に、皿を食器棚に…」と列挙するしかない。情報が多くなるほど、説明も複雑になり、伝わらなくなる。
つまり、抽象と具体を自由に行き来できる人ほど、相手に応じて“階層を変えて伝える”ことができるのです。これが、情報発信者や教育者、プレゼンター、そしてAI時代の仕事人にとって不可欠な力となります。
そして重要なのは、この力は「天性」ではなく、「トレーニング」で身につくということ。本書はその実践的な思考法を提示してくれています。
では実際に、この抽象⇔具体の思考が、どのような場面で役立つのか?
次のブロックでは、ゼロイチ・スタジオの文脈でリアルな例を紹介していきます。
抽象と具体の往復が、“伝わる発信者”をつくる
「抽象は難しい」「もっと具体的に言って」
そんなフィードバックを受けたことがある方も多いと思います。けれど、それは単に「具体に落とし込めていない」だけでなく、「抽象から具体への橋渡し」がないから、伝わらないのです。
たとえば、ゼロイチ・スタジオでもよく出てくるキーワードに「習慣化」「マインドセット」「稼ぐ力」といった抽象的な言葉があります。これをそのまま投げかけたところで、「で、何すればいいの?」と返されるのがオチです。
たとえば、「習慣化が大事だよ」と言っても、それだけでは届きません。そこで「朝4時に起きて5km走っている」と具体を示すと、「なるほど、そういうことか」と腑に落ちる。一方で、ただ「朝ランしてます」とだけ伝えても、それは“自慢”や“特殊な例”で終わってしまう。そこに「これは“習慣化”という概念の実践です」と補えば、“考え方”として汎用性を持たせることができる。これが抽象⇔具体の往復です。
実際、ブログを書くときも、ChatGPTを使って壁打ちをするときも、この思考の往復ができるかどうかで、アウトプットの質がまったく変わってきます。たとえば:
- ChatGPTに「リスナーが共感する話の構成を考えて」と抽象的に依頼しただけでは、あいまいな答えが返ってくる。
- 逆に「このイベントで、30代女性向けに“迷ったときの一歩”をテーマにした構成を」と具体的に言えば、提案内容が格段に深まる。
- さらにその内容に対して、「これは“選択の心理”という抽象概念を使って組み直せますか?」と再抽象化すると、骨組みそのものが進化する。
このように、発信や会話、仕事やAI活用まで、すべては「抽象⇔具体の往復」があるかどうかで“深さ”が変わるのです。
抽象で価値を伝え、具体で納得をつくる。
逆に、具体でつかみ、抽象で普遍化する。
この行き来ができる人が、「伝わる人」であり、「教える力」を持つ人なのです。
“縦軸の思考”こそが、あなたの発信を価値に変える
今の時代、情報はあふれています。調べれば何でも出てくるし、AIを使えば簡単に文章だって作れてしまう。そんな中で、人が求めるのは「すでにある情報」ではなく、「その人ならではの視点や考え方」です。
つまり、“情報をどう伝えるか”ではなく、“どう捉えているか”が問われる時代なのです。
ここで決定的に必要になるのが、「抽象⇔具体の思考力」です。
本書『具体⇔抽象トレーニング』でも繰り返し語られているのは、抽象化=汎用化の力であり、具体化=行動につなげる力であるということ。
この行き来ができる人は、相手の状況に合わせて“階層を切り替えながら伝える”ことができます。だからこそ、発信が深くなり、教える言葉に納得感が生まれる。
これは、ブログを書く人だけの話ではありません。
副業を考えている人、AIを使って仕事の幅を広げたい人、あるいは自分の経験を商品化したい人すべてにとって、「伝える力」は避けて通れない壁です。
そして、その力は、何か特別なセンスや才能ではなく、**トレーニングによって誰でも磨ける“思考の技術”**なのです。
だからこそ、まずは「自分の話が抽象的すぎないか? 具体に偏りすぎていないか?」と問い直してみてください。
そして、発信の中で「抽象→具体→抽象」の往復を意識してみてください。
それだけで、あなたの言葉は、きっと“伝わる言葉”に変わっていきます。
この記事を書いた人|ミライジュウ
メディア関連企業の業務部長。ラジオ演出30年の経験を経て、
「50代からでも“1円を生む力”は育てられる」と信じて発信中。
毎朝4時起きでランニング・筋トレ継続中。
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