SNSのタイムラインを眺めれば、「億り人」「最速で月収100万」「寝ている間に不労所得」といった言葉が、まるで人生の唯一の正解であるかのように踊っています。私たちはいつの間にか、「通帳の数字を増やすこと」そのものが目的のゲームに、強制的に参加させられているような感覚に陥っていないでしょうか。
しかし、ここで一度、冷静に立ち止まって考えてみてください。
「お金さえあれば幸せになれる」と信じてがむしゃらに走り続けた先に、本当にあなたが望んだ景色はあるのでしょうか?
実は、自分の身の丈に合った「お金の適量」を知っておかなければ、たとえ大金を手にしたとしても、心は常に渇き、人生という料理は「しょっぱくて食べられない」ものになってしまいます。今回は、お金の本質を突いた「塩」の比喩と、そこから導き出される「5つの富」という概念を組み合わせ、私たちの人生、そしてビジネスをどう「美味しく」アップデートしていくべきかを探っていきます。
お金は「塩」である。単体では決して食べられない。
データサイエンティストであり、投資の知恵をデータで解き明かすニック・マジョーリは、その著書『富の階段(THE WEALTH LADDER)』の中で、お金を「塩」に例えています。この比喩は、現代人が陥りがちな盲点を鮮やかに突き刺します。
想像してみてください。あなたは今、目の前のテーブルに最高級の「塩」が山盛りに盛られているのを見ています。しかし、そこには肉も野菜も、パンもありません。あなたは、その塩をスプーンですくって食べようと思うでしょうか?
答えは「ノー」です。塩は、それ単体で食べるものではありません。新鮮な食材があって初めて、その旨味を引き出すために機能する「ミネラル」なのです。
お金もこれと全く同じです。お金という「塩」は、あなたの趣味、家族との時間、健康的な食事、あるいは新しい挑戦といった「人生の素材」に振りかけることで、初めてその価値を発揮します。
お金だけがあるけれど、分かち合う友人もいなければ、楽しむための健康もない。これは、お皿の上の塩を眺めて空腹に耐えているようなものです。足りないと味気ないけれど、多すぎれば素材の味を殺してしまう。私たちは「どうやって塩を増やすか」と同じくらい、「何に塩を振りかけるのか」を真剣に考えなければならないのです。
人生を彩る「5つの富」という名のメイン食材
では、その「塩」を振りかけるべき「素材」とは具体的に何を指すのでしょうか?ここで、ニック・マジョーリもその著書の中で引用している、起業家サヒル・ブルームが提唱する「5つの富(5 Types of Wealth)」というフレームワークが非常に役に立ちます。彼によれば、私たちが目指すべき富には、お金を含めた5つの種類があるといいます。
経済的な富(Financial Wealth)
いわば「塩」そのものです。最低限の量は生存に不可欠であり、人生の選択肢を広げてくれます。しかし、前述の通り、これだけでは料理は成立しません。
身体的な富(Physical Wealth)
健康のことです。これは料理を味わうための「舌」そのものです。どれほど豪華なフルコースを用意しても、舌が麻痺していれば、その価値を1ミリも享受することはできません。
時間的な富(Time Wealth)
自由な時間のことです。料理をじっくりと味わうための「余白」と言い換えてもいいでしょう。どんなに美味しい料理でも、1分でかき込まなければならないとしたら、そこに感動は生まれません。
社会的な富(Social Wealth)
人間関係です。「誰と食卓を囲むか」ということです。一人で食べる寂しい贅沢よりも、気心の知れた仲間と笑いながら食べる素朴な料理の方が、圧倒的に満足度が高いことを私たちは知っています。
精神的な富(Mental Wealth)
心の平穏です。自分の価値観に従って生きているという納得感、つまり「食後の幸福な余韻」のようなものです。
ニックの言う「塩」を、サヒルが定義した「他の4つの富」という食材にいかに振りかけるか。これこそが、人生を豊かに調理する技術の正体です。
科学が証明する「最高の味付け」:経験を買う
では、これら5つの要素を整える際、どこに最も「塩(お金)」を投入すべきなのでしょうか?その強力な指針となるのが、エリザベス・ダンとマイケル・ノートンの共著『幸せをお金で買う5つの授業』です。
心理学の研究によれば、アメリカ人の約57%が「モノを買うより、経験を買うほうがずっと幸せになれる」と回答しています。一方で、「モノの方が幸せ」と答えたのはわずか34%でした。
なぜ、モノという「器」を揃えるより、経験という「体験」に塩を振るべきなのか。最大の理由は、経験には「適応(慣れ)」が起きにくいからです。
最新のスマートフォンや高級な時計を買っても、3ヶ月もすればそれは「日常の風景」に溶け込み、喜びは薄れます。しかし、未知の土地へ旅した記憶や、誰かと共に困難を乗り越えた挑戦の記憶は、脳の中で「思い出」として一生熟成され続けます。
経験にお金を使うことは、人生という料理に、時間が経っても消えない「深い香り」を添えるようなものなのです。
コンテンツビジネスへの強烈なインパクト
この「経験にお金を使うことが幸福を最大化する」という真理は、私たちの主戦場であるコンテンツビジネスに革命的な影響を与えます。もしあなたが発信者や教育者であるなら、この視点を持たずに生き残ることは難しいでしょう。
① 「知識(モノ)」を売るな、「経験」を設計せよ
これまでのコンテンツビジネスは、ノウハウという「情報」を売る傾向がありました。しかし、情報だけを渡されても、顧客はすぐにその情報に慣れ、満足度は低下します。
私たちが売るべきは、そのノウハウを使って顧客が「どんな経験をするか」というプロセスそのものです。ワークショップ、コミュニティ、実践を通じた変化。コンテンツを「モノ」から「経験」へと昇華させることで、顧客の幸福度とリピート率は劇的に向上します。
② 「他の4つの富」を助けるためのスパイスであれ
顧客があなたのコンテンツを買う真の理由は、単なる増収(塩を増やすこと)だけではありません。「家族との時間を増やしたい(時間的な富)」「自分に自信を持ちたい(精神的な富)」といった、他の素材を輝かせるための助けを求めているのです。
お金を使って他の素材をいかに美味しくするかを提示できるコンテンツこそが、最も価値を持ちます。
③ 「ご褒美」としてのコンテンツ体験
『5つの授業』では「ご褒美にする」というルールも紹介されています。いつでも手に入る安売りコンテンツではなく、手に入れるまでの過程をワクワクさせ、手に入れた瞬間に「特別な経験」が始まるような演出。この「体験の設計」こそが、顧客に一生忘れられない価値を提供します。
あなたの「黄金比」を見つける旅へ
「お金持ちになりたい」という願いの正体は、実は「人生をもっと美味しく味わいたい」という願いに他なりません。
もしそうなら、塩(お金)を増やすことだけに人生を費やすのは本末転倒です。サヒル・ブルームが説く5つの富をバランスよく並べ、限りある塩を、最高の「経験」という素材に適切に振りかける。
本当の「成長」とは、単に資産額という数字を増やすことではありません。「今、どの素材にどれだけの塩を振れば、私の人生は最高に輝くか?」その塩梅(あんばい)を自在にコントロールできる技術を磨くこと。それこそが、富の階段を登る本当の意味なのです。
この記事を書いた人|ミライジュウ
メディア関連企業の業務部長。ラジオ演出30年の経験を経て、
「50代からでも“1円を生む力”は育てられる」と信じて発信中。
毎朝4時起きでランニング・筋トレ継続中。
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