SNS時代の自尊心と商品設計|個人クリエイターが知っておくべき心理学とマーケティング

「いい商品なのに売れない…」その原因、実は“自尊心”です

Udemyやnoteで教材を作ったり、ブログやSNSで発信したりしているのに、なかなか人の反応がない。知識や経験には自信があるのに「なぜ響かないのか」と悩む。あるいは、「押し売りっぽくなく自然に買ってもらうにはどうしたらいいのか」と感じている──。

こうした悩みを抱える個人クリエイター、講師、コンサルタントは少なくありません。多くの人は「内容が良ければ売れる」と信じていますが、実際には商品や発信が届くかどうかは「顧客の自尊心をどう扱うか」で決まります。

SNS時代のマーケティングは、知識の量よりも「物語の設計」がカギを握っているのです。

売れる商品は「顧客の物語」を支えている

結論から言えば、これから商品を作る人が意識すべきは「相手の自尊心を支える物語を設計すること」です。

人は価格や機能だけでは動きません。自分が大切に扱われている、自分は価値のある人間だと感じられる体験に出会ったとき、初めて心を開き、商品を選びます。

つまり、教材やサービスを作ることは、顧客に「私はこういう人間だ」と語れる物語を渡すことと同義です。逆に言えば、物語を持たない商品は、どれだけ機能的でも選ばれません。

人が動かない理由は“理性”ではなく“自尊心”にあった

人間は合理的に動くようでいて、実は自尊心の揺れ動きに大きく左右されます。

心理学や進化論の知見では、人は「自分の価値を脅かされた」と感じた瞬間、防御的・攻撃的になり、相手の話を聞かなくなることが示されています。SNSの炎上やキャンセルカルチャーはその典型です。

逆に言えば、自尊心が尊重されれば、心はひらかれ、耳を傾ける準備が整います。商品を作るうえでも、まずは「顧客の自尊心を傷つけない」こと、そして「小さな場面で尊重を積み重ねること」が必要になります。

人の心を動かすヒントはこの3冊にある

この視点を理解するうえで役立つ本が3冊あります。

レス・ギブリン『人望が集まる人の考え方』。
橘玲『バカと無知』。
ロバート・チャルディーニ『影響力の武器』。

切り口は異なりますが、いずれも「人間は自尊心に従って動く」という共通のメッセージを持っています。ここでは、それぞれの本がどのように自尊心を捉えているのかを見ていきましょう。

自尊心は「人間関係を開く鍵」──レス・ギブリン

レス・ギブリンが教えてくれるのは、自尊心とは「人間関係を開く鍵」であるということです。人は自分の価値を認められたとき、心の扉を開きます。逆に、自尊心を傷つけられると、一瞬で防御的になり、相手の言葉は耳に入らなくなります。

だからこそ、相手を大切に扱うことがすべての出発点になるのです。ちょっとした注目、心からの感謝、誠実な称賛。これらは単なる礼儀ではなく、相手に「自分は価値のある存在だ」と感じさせる力になります。

ギブリンにとっての自尊心は、相手を動かすためのテクニックではなく、人を尊重する態度そのもの。人間関係の潤滑油であり、最終的には相手と自分の幸福をともに引き上げる原動力なのです。

自尊心は「社会を揺るがす警報装置」──橘玲

橘玲氏の視点から見ると、自尊心は「人間が社会で生きるための警報装置」です。

彼は、人間の脳は「被害」を過大評価し「加害」を過小評価するようにできていると説明します。なぜなら、かつて集団から排除されることは死を意味したからです。だから自尊心が傷つくと、人は過剰に反応し、攻撃的になります。炎上や村八分、出る杭が打たれる現象は、この自尊心の過敏さから生まれています。

橘氏にとって自尊心は、優しい存在ではなく、むしろ社会を不安定にする爆弾のようなもの。人が理性的に話し合うことを妨げる要因でありながら、それでもなくてはならない存在です。

自尊心がなければ人は群れの中で自分を守れず、社会の中で自分の位置を確認することもできない。だからこそ、私たちは自尊心のやっかいさを認めたうえで、それを前提に人間関係や商品設計を考えなければならないのです。

自尊心は「人を動かすスイッチ」──ロバート・チャルディーニ

チャルディーニの立場から見た自尊心は、「人を動かすスイッチ」と言えます。

彼は返報性や一貫性、社会的証明など六つの心理原則を通じて、人間がどのように行動を選ぶかを解き明かしました。たとえば返報性は、「大切に扱われた」という感覚が自尊心を満たすからこそ機能します。一貫性は、「私は正しい選択をする人間だ」という物語を守りたい自尊心に支えられています。社会的証明は、「自分は仲間の輪の中にいる」という自尊心を補強します。

つまりチャルディーニの理論は、自尊心を中心にした行動メカニズムのカタログなのです。彼にとって自尊心は、人を説得するための最も基本的なレバーであり、うまく扱えば人は自ら動き出す。

だから「影響力の武器」とは、顧客の自尊心を尊重しつつ自然に行動へ導く、心理学的な設計図だと言えるでしょう。

3冊が同時に指摘する「人が動く唯一のスイッチ」=自尊心

ここまで見てきたように、3冊はそれぞれ違うアプローチを取りながらも、自尊心の重要性を強調しています。

自尊心は人間関係を開く鍵であり、社会を揺るがす警報装置であり、人を動かすスイッチです。

つまり、自尊心を尊重することは単なる気配りではなく、顧客が商品を選び、行動を起こす最も根源的な要因なのです。商品づくりで成果を上げたいなら、この「唯一のスイッチ」を押さえなければなりません。

心理学が証明した「人を動かす6つのレバー」

ここで特に有用なのが『影響力の武器』です。チャルディーニが挙げた6つの心理原則は、商品設計にそのまま応用できます。

  • 返報性:最初に小さな価値を与えることで「大切にされている」と感じさせる。例:無料体験やギフト。
  • 一貫性:小さな約束をしてもらうことで「自分は正しい選択をする人だ」という物語を補強。例:事前のアンケートやチェックリスト。
  • 社会的証明:同じ立場の人が使っている事例を見せて「自分も輪の中にいる」と安心させる。
  • 好意:作り手の人柄や共通点を伝えて「自分と似ている存在だ」と感じてもらう。
  • 権威:専門家の推薦やデータを示し「自分の判断は正しかった」と裏付ける。
  • 希少性:限定要素を入れ「特別な存在である」と感じさせる。

これらは単なるテクニックではなく、自尊心を支える仕組みとして機能します。顧客が「自分は大切に扱われている」と思えるように設計すれば、自然に選ばれる商品が生まれるのです。

個人クリエイターに必要なのは「物語を売る力」

最終的に、商品づくりとは「物語を設計すること」です。

物語とは、顧客が「私はこういう人間だ」と言える自己像のこと。Udemy教材なら「学び続ける自分」、コンサルサービスなら「頼られる自分」、趣味の商品なら「センスある自分」。この物語を支える仕組みを用意できれば、人は自然に心を開き、行動に移ります。

知識や機能は大切ですが、それ以上に大事なのは「顧客の自尊心をどう扱うか」。ここを理解し、物語を設計できるかどうかが、これからの個人クリエイターの成否を決めるのです。

この記事を書いた人|ミライジュウ

メディア関連企業の業務部長。ラジオ演出30年の経験を経て、
「50代からでも“1円を生む力”は育てられる」と信じて発信中。
毎朝4時起きでランニング・筋トレ継続中。
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