「問題解決のために、まずは『あるべき姿(To be)』を描き、次に『現状(As is)』を把握して、そのギャップを埋めましょう」
ビジネス書や研修で、一度は耳にしたことがある定番のフレームワーク「As is / To be」。
論理的思考の基本として広く知られていますが、ここで一つ、胸に手を当てて考えてみてほしいのです。
「このフレームワーク、実際の仕事で型通りに使って、劇的な成果に繋がったことがありますか?」
「理想と現実を書き出してみたけれど、出てきた解決策はいつも通りの平凡なものだった」
「綺麗なスライドはできたけれど、現場に落とし込もうとしたら『予算も人員もないから無理』と却下された」
もしそんな経験があるなら、あなたの能力が足りないわけではありません。実は、定番の「As is / To be」には、現代の複雑なビジネス現場で使うには致命的な“最後の一ピース”が欠けているのです。
今回は、なぜ「As is / To be」で考えると空回りしてしまうのか、その理由と、打率100%の思考力を手に入れるための最新の「地頭の型」を解説します。
真面目な人ほど陥る「打ち手バカ」の罠
多くのビジネス現場で起きている、ある「空回り」の事例から考えてみましょう。
【事例:売上が落ちてきた飲食店の会議】
「最近、ランチの売上が落ちている(As is)。なんとか元の水準に戻したい(To be)。さあ、どうする?」会議に参加したメンバーは、必死にアイデアを出し合います。
「最近はSNSが流行っているから、インスタのアカウントを作ってリール動画を回しましょう!」
「トレンドのスイーツを期間限定メニューとして導入するのはどうですか?」
「近隣のオフィスにチラシを配りまくりましょう!」
一見、活発で前向きな会議に見えます。しかし、これこそがビジネスの世界で最も恐れされている「打ち手バカ(=手段の暴走)」の状態です。
名著『イシューからはじめよ』(安宅和人著)では、問題の本質を見極めずに、とにかく手当たり次第にアクションを起こして打率を上げようとする愚策を「犬の道」と呼び、厳しく戒めています。
なぜ、私たちは「理想と現実」を並べられると、すぐに「インスタをやろう」「ChatGPTを使おう」といった、知っている手段に飛びついてしまうのでしょうか。
その理由は、人間の脳の構造にあります。私たちの脳は放っておくと、過去の経験や知識のストックから手っ取り早く答えを探そうとする「知頭(ちあたま:知識の頭)モード」で動いてしまうのです。これは脳内の検索エンジンを回しているだけの状態であり、本当に自分の頭で考える「地頭(じあたま)」は起動していません。
And、「As is / To be」というシンプルな枠組みだけでは、この「知頭の暴走(打ち手バカ)」を止めることができないのです。
定番の「As is / To be」に足りないものとは?
では、「As is / To be」の何が問題なのでしょうか。決定的に足りないものは2つあります。
弱点①:「現状(As is)」の分解が甘すぎる
先ほどの飲食店の例で言えば、「売上が落ちている」というのは単なる結果(事象)です。これをそのまま「As is」としてしまうから、打ち手も「売上を上げるためにインスタをやる」という雑なものになります。
地頭が良い人は、この現状をさらに細かく「構造化」します。
例えば、ビジネスを「足し算・掛け算・歩留まり率」といった型で分解するのです。
- 足し算:売上 = ランチ売上 + ディナー売上
- 掛け算:ランチ売上 = 客数 × 客単価
- 歩留まり:客数 = 通行者数 × 認知率 × 入店率
こうして分解した結果、「ディナーは落ちていない。ランチの客数、それも『お店の存在を知っているのに通り過ぎてしまう(入店率)』だけが異常に落ちている」という事実があぶり出されます。ここまでやって初めて、本当の現状(As is)を捉えたと言えます。
弱点②:決定的な一ピース「条件(制約)」が抜けている
And、これこそが最大の問題です。「理想(To be)」と「現実(As is)」だけを並べると、人間は「実現不可能で、中身のスカスカなアイデア(絵に描いた餅)」を量産しがちになります。
ビジネスの現場には、必ず予算、時間、人員、そして競合の存在といった「変えられない現実(制約)」があります。
どんなに素晴らしいアイデアでも、自社のリソースで実行できなければ、それは「良い解決策」とは呼べません。
つまり、「理想」と「現実」をただ並べるだけでは不十分で、その2つの間にある「どのような縛りプレイ(制約)の中で答えを出さなければいけないか」という判断軸が絶対に不可欠なのです。
脳に地頭モードを強制起動させる「モゲジョの法則」
この「As is / To be」の弱点を完全に克服し、誰でも天才と同じ精度で問題解決ができるようにシステム化したのが、上場企業「北の達人コーポレーション」の木下勝寿社長が提唱する「モゲジョの法則」です。
モゲジョとは、以下の3つのステップの頭文字を取ったものです。
- 【モ】目的:その問いが目指しているゴールは何か?(To be)
- 【ゲ】現状:目的に対して、今はどういう構造になっているか?(深掘りしたAs is)
- 【ジョ】条件:目的と現状から、どのような判断軸や制約で考えるべきか?(★解を導く最後の一ピース)
この「モ・ゲ・ジョ」の順番で思考を進めると、脳の動きは「検索エンジン(知頭)」から、その場で最適な答えを作り出す「生成AI(地頭)」へと強制的に切り替わります。
先ほどの飲食店の例を、「モゲジョの法則」で考え直してみましょう。
- 【モ】目的:ランチの売上を元の水準に戻すこと。
- 【ゲ】現状:データを分解すると、ディナーは好調。近くにテイクアウトのファストフード店ができた影響で、時間のないオフィスワーカーの「ランチ入店率」だけが落ちている。
- 【ジョ】条件:追加の広告予算はゼロ。ターゲットは「時間のない人」なので、「提供スピードが圧倒的に早く、デスクに持ち帰って食べられるテイクアウトメニュー」でなければならない。
どうでしょうか。ここまで「モ・ゲ・ジョ」の枠組み(問いの外枠)が綺麗に固定されると、どう考えても「インスタを開設しよう」とか「流行りのスイーツを導入しよう」といった見当違いな打ち手は出てこなくなりますよね。
「モゲジョの法則」の本質とは、思考が手段に暴走するのを防ぐための「安全装置」であり、自分の脳に最高精度の答えを出させるための「プロンプト(指示文)」なのです。
結論:まずは3週間、脳の筋トレをはじめよう
「あの人は地頭が良いから、すごいアイデアが思いつくんだ」
私たちはそう思いがちですが、それは誤解です。地頭の良さとは、生まれ持った脳のスペック(才能)ではなく、単なる「思考の習慣(モード)」に過ぎません。
地頭が良い人とは、「飛び抜けたアイデアを思いつく人」ではなく、「アイデアを出す前に、モゲジョの型を使って前提を整理することをサボらない人」のことです。
明日からの仕事で、課題に直面したらすぐに解決策を探すのをやめてください。
まずはノートの端に「モ・ゲ・ジョ」と書き、
「目的は何か?」
「現状のボトルネックはどこか?」
「満たすべき条件(制約)は何か?」
この3つを埋める習慣をつけてみましょう。
まずは3週間、意識的にこの型を使い続けること。
それだけで、あなたの脳の神経回路は書き換わり、未経験の課題に直面しても「自分の頭で最適な答えを生成できる」本物の地頭モードが手に入るはずです。
[追伸]さらに思考の視座を上げたい方へ
今回ご紹介した「モゲジョの法則」は、ヒットビジネス書を連発している木下勝寿氏の最新作『地頭スイッチ』(ダイヤモンド社・2026年6月30日発売予定)で明かされているメソッドの一部です。本の中では、さらにビジネスの成果を桁違いに大きくする「目的さかのぼりの法則」や「逆算思考の法則」など、一生モノの思考アルゴリズムが網羅されています。気になる方はぜひチェックしてみてください。

コメント