「毎日、朝から晩まで目の前の仕事で手一杯。忙しいけれど、本当にこのままでいいのだろうか?」
もしあなたがそんな焦りを感じているなら、立ち止まるチャンスです。
多くのビジネスリーダーや、これから個人でビジネス(コンテンツビジネスなど)を始めようとする人が陥る、恐ろしい罠があります。
それが「忙しさの中に逃げ込んでしまう」という罠です。
マイケル・ガーバーの名著『はじめの一歩を踏み出そう』の原題は『The E-Myth』。
「E-Myth(イーミス)」とは、起業家(Entrepreneur)の「神話・迷信(Myth)」を意味する造語です。
本書は「優れた技術があればビジネスは成功する」という、私たちが抱きがちなアントレプレナーシップ(起業家精神)の誤解を痛烈に再考させてくれます。
ガーバーは、ビジネスには2つの視点があると説きます。
ビジネスを1つの「箱」に例えたとき、その中に入って日々の業務を泥臭くこなす「イン・ザ・ビジネス(In the business)」。
そして、箱の外に出てシステム全体を客観的に設計する「オン・ザ・ビジネス(On the business)」です。
多くの人が、前者の「イン(現場・実行)」だけに100%の力を注ぎ、力尽きてしまいます。
なぜ私たちは、間違っていると薄々気づきながらも、目の前の忙しさから抜け出せないのでしょうか。
その心理的なブレーキと、そこから脱却するための戦略を紐解きます。
努力の方向を間違える「実行100%」の恐怖
「優れた技術やスキルがあれば、ビジネスは成功する」
これは、多くの人が信じ込んでいる「起業家の迷信(E-Myth)」です。
「美味しい料理が作れること」と「素晴らしいレストランを経営できること」は全くの別問題です。
世界一美味しいハンバーガーを作れなくても、圧倒的に優れたプロセスと仕組み(システム)を整えたマクドナルドが世界中で成功しているのが、その何よりの証拠です。
ビジネスにおいて「現場の実行(Doing)」に偏りすぎた組織や個人は、驚くほど非合理的なリソースの無駄遣いを起こします。
ある伸び悩む事業部を分析したところ、衝撃的な事実が判明した例があります。
売上の大半をもたらしている「たった1つの主力商品」には、全体のわずか「3%」の労力しか割かれていませんでした。
その一方で、売上の5〜10%にしかならない「すでに売れなくなった細々とした6〜8個の商品」に対して、全体の「70〜80%」もの膨大なエネルギーを注ぎ込んでいたのです。
一歩引いてデータを分析すれば、わずか3〜4時間で気づける歪みです。
しかし、日常業務の中で一生懸命走っている(実行100%になっている)と、ビジネスの設計図が見えなくなり、間違った方向に全力疾走してしまうのです。
なぜ人は「忙しさ」から抜け出せないのか?(心理的罠)
間違っていると分かっても日常業務から抜け出せない最大の理由は、人間が本能的に持つ「忙しさへのニーズ」です。
忙しく走り回っていると、私たちは「自分は頑張っている」「社会から必要とされている」という強い満足感や自己重要感を得られます。
実は、先ほど挙げた「売れなくなった商品に70〜80%のエネルギーを割いてしまう」という非合理的な行動の正体もここにあります。
成果の出ない細々とした業務ほど、手数が多くて手がかかるため、「精神的に気持ちの良い忙しさ」へ逃げるための格好の言い訳になってしまうのです。
逆に、手が空いていたり「暇」であったりすることは、サボっているように見えて怖いのです。
そのため、無意識のうちにあえて忙しい状態にとどまろうとしてしまいます。
この「忙しさへの逃避」は、致命的な「学習の放棄」を引き起こします。
「スマホのマップを開けば一瞬でルートが分かるのに、『調べるのが面倒だから』と勘を頼りに歩き続け、迷子になる」
「電卓やExcelを使えば1秒で終わる計算を、『今は忙しいから』とわざわざ手書きの筆算でやり続け、時間を溶かす」
これと同じことを, 多くのビジネスパーソンがやっています。
新しいITツールやAIの登場により、一歩引いて仕組みを作れば一瞬で終わる作業を、「今は忙しいから」と言い訳して、非効率な手作業(イン・ザ・ビジネス)でこなし続けているのです。
私自身の話:かつての「徹夜の美学」と、現在の「AI仕組み化」
ここで、私自身の話をさせてください。
かつて私は、ラジオディレクターという「イン・ザ・ビジネス(現場・職人世界)」の極限のような世界にいました。
「もうこの辺で良いだろう」という妥協の思いを悪とし、オンエアギリギリまで何が最善かを突き詰めて自分を追い込む。
しかしそれは同時に、そういう時代背景も含め、「自分の体力と時間を100%切り売りする生き方」でもありました。
今になって思えば、あの頃もっと業務を「仕組み化」できていれば、削り出された時間を使って、その先にある面白い企画やアイデアを生むためのインプットに充てられたはずだ、と今更ながらに痛感します。
しかし現在、私は業務部長として、かつてとは真逆の「オン・ザ・ビジネス(システムの設計)」に軸足を置き、会社の収支管理業務をAIコーディングを使って自動化・仕組み化する仕事をしています。
マイケル・ガーバーの『はじめの一歩を踏み出そう』は30年以上前の古い本ですが、その本質は1ミリも色褪せていません。
変わったのは「音源を編集する」から「コードを書く・発信する」という道具(テクノロジー)だけであり、「目の前の作業(=売れない商品への80%の注力)に逃げて仕組み化を後回しにする」という人間の行動心理は全く同じだからです。
むしろ、AIやデジタルツールが登場した現代こそ、この本の価値は跳ね上がっています。
かつては大企業しかできなかった「システムの構築」が、今や個人でも、AIを使って低コストで一瞬で実現できるようになったからです。
「楽をすることは罪だ」という職人気質のブレーキを突破し、過去の自分が作った「仕組み」に今の自分を助けてもらうこと。
それによって生まれた「余白」を、よりクリエイティブなインプットや構想に使うこと。
それこそが、さらに高い価値を生み出す源泉になります。
停滞を打破する「余白」の創出と「視点の往復」
では、この忙しさの罠から抜け出し、ビジネスを次のステージへ進めるためにはどうすればいいのでしょうか。
必要なのは、リーダーとしての意図的な行動です。
意図的に「余白」を作る
週5日、朝から晩まで予定を詰め込んでいると、新しい知識やアイデアが入ってくる隙間がありません。
新しいことを学ぶ時間は「サボっている」ように感じられがちですが、意図的に日常業務をしない「余白」の時間をスケジュールに強制確保しなければ、新しい技術(AIなど)を身につけたり、事業を客観的に分析したりすることは不可能です。
余白があるからこそ、脳内の情報が組み合わさって新しい設計図が生まれます。
「現場(実行)」と「設計(俯瞰)」を行き来する
実行(Doing)を100%にすると組織や個人は疲弊して死んでしまいますが、逆に現場に一切入らず、部屋に引きこもって考え事ばかりしているのも機能しません。
理想的なのは、「現場に深く入り込んで具体的な課題や手触りを掴み、そこから一度離れて抽象化・マニュアル化(設計)し、また現場に戻る」という往復を繰り返すことです。
結び:自分のビジネスを「システム」としてプロデュースする
特に、これまでの経験を活かしてコンテンツビジネスや個人事業を始めようとするミドルシニア層にとって、この「オン・ザ・ビジネス」の視点は死活問題です。
若い世代のような体力勝負の全力疾走に巻き込まれれば、すぐに息切れしてしまいます。
時代が変わり、どれだけ便利なAIが登場しても、売上の数%にしかならない業務(衰退商品への80%の浪費)を必死にこなす「プレイヤー(作業員)」のままでいれば、消耗戦からは抜け出せません。
私たちがやめるべきは、精神的に気持ちの良い「目の前の忙しさ」に逃げることです。
定期的に立ち止まって意図的な「余白」を作り、自らのビジネスを一つのシステムとして俯瞰し、AIという現代の最強の武器を組み込みながら設計図を描き直す。
本当のアントレプレナーシップとは、現場で誰よりも働くことではなく、「自分がいなくても回るシステム」を構築すること。
「職人」から「プロデューサー」へ。
古典の名著が教える普遍の知恵を、現代のテクノロジーで具現化した瞬間に、あなたの本当のビジネスが動き始めます。

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