思考の「デッドロック」を打ち破れ。行き詰まった状況を劇的に変える「具体⇔抽象」の視点術

「会議がまとまらない」「予算も人もいない」「人間関係がギスギスしている」

日々直面するこうした膠着(こうちゃく)状態のなかで、私たちはよく「別の視点から考えよう」という言葉を耳にします。しかし、実際に視点を切り替えられる人は驚くほど少ないのが現実です。

なぜ、私たちは「別の視点」を持てないのでしょうか。その最大の理由は、私たちが「具体の世界」という重力に縛り付けられているからです。細谷功氏が著書『具体⇔抽象トレーニング』で指摘するように、目の前の具体的な事象にだけ囚われる「具体病」こそが、思考停止の正体です。

本記事では、この具体と抽象を往復する「知の縦軸」を使い、ビジネスや日常のデッドロックを打ち破る技術を解説します。

思考のOSをアップデートする「具体⇔抽象」の往復運動

多くの人が陥る「視点が変えられない」という悩みは、具体の世界(横軸)だけで解決策を探そうとしていることに起因します。

「具体病」が思考を硬直させる

例えば、「優秀な営業マンがいない」という悩み。これを具体レベルで解決しようとすると、「求人広告を出す」「給料を上げる」「他社から引き抜く」といった、知識や情報の量(横軸)の勝負になってしまいます。しかし、金も時間もない現状では、この横軸の移動はすぐに限界を迎えます。

解決の王道:具体→抽象→具体

ここで必要なのが、一度「空へ上がる」ような抽象化のプロセスです。

  • 具体:優秀な営業マンがいない。
  • 抽象化:そもそも営業マンの役割とは何か? → 「商品の価値を伝え、顧客の課題を解決し、対価を得ること(営業機能)」であると再定義する。
  • 再具体化:その「機能」を果たすのは、必ずしも「人間」である必要はない。Webサイトの導線設計、AIチャットボット、あるいは既存顧客による紹介システム(リファラル)でも代替可能ではないか?

このように、一度抽象度の高いレベルに思考を引き上げることで、元の具体レベルでは見えなかった「第3の選択肢」が姿を現します。

お笑いに学ぶ「コンテクスト(文脈)の反転」

思考を柔らかくするために、ここで少し「お笑い」という変化球を取り入れてみましょう。実はお笑い芸人こそ、この「具体⇔抽象」の往復を瞬時に行うプロフェッショナルです。

「実は〇〇だった」という構造の転換

コントでよくある「リモート会議の相手が、実は寝そべって上からカメラを撮っていただけだった」というネタ。これは「真面目な会議(具体)」という枠組みを、「重力への抵抗(抽象的な構造)」として捉え直し、カメラアングルという「視点」で裏切る高度な思考法です。

この「カメラアングルを変える(メタ視点)」という技術は、ビジネスでも絶大な威力を発揮します。議論が白熱しすぎて視野狭窄に陥ったとき、「今の自分たちを上空からドローンで撮っていたら、どう見えるだろう?」と問いかける。これは、当事者という「具体」を捨て、観客という「抽象」の視点を持つことで、場の空気を一変させる手法です。

「ボケ」とは「抽象化」である

お笑いの「ボケ」は、常識(具体)を一度抽象化し、全く別の具体に結びつけることで生まれます。「優秀な営業マンがいない」ことを逆手に取り、「もし法律で、営業マンが一切喋ってはいけない(声を出してはいけない)世界になったら、わが社はどうやって商品を売るか?」という、一見バカバカしい「ボケ」のような問いを立ててみる。

すると、「トークスキル」という具体に頼らずとも、「一目で納得させる図解資料」や「顧客が自ら動きたくなる導線設計」といった、本質的な営業機能の改善策が見つかることは、決して珍しくありません。

人間関係の膠着を解く「知のハシゴ」

視点の切り替えが最も難しいのは、感情が絡む1対1の対立です。

具体的だからこそ、わかり合えない

「具体的でわかりやすい」のが善とされる世の中ですが、人間関係においては「具体的だからこそ、わかり合えない」というパラドックスが起きます。「あなたが昨日ゴミ出しを忘れた(具体)」と責めれば、相手は「仕事が忙しかった(別の具体)」と反論します。具体レベルの議論は、例外のぶつかり合いになり、出口がありません。

抽象度のハシゴを上がる

そんな時は、あえて抽象度の高い言葉で「共通の土俵」を作ります。「ゴミ出しの話は一度置いておこう。そもそも、私たちは家の中でどんなふうに協力し合える関係でありたいんだっけ?」

このように、具体的な「事象」から、抽象的な「目的・価値観」へとハシゴを上がることで、お互いの対立は「共通のゴールを目指すための課題」へと姿を変えます。

AI時代、人間に残された最後の武器

これからのAI時代、膨大な知識量(横軸)や過去の具体例の適用は、すべて機械が担います。AIは「過去の正解」を出すのは得意ですが、「正解のない世界」で自ら構造を作り出すのは苦手です。

異なる事象の間に共通の構造を見出し、「これとこれは、本質的には同じだ」と見抜く能力。悲劇を喜劇に変える、カメラアングルの切り替え。これら「知的能力の縦軸」こそが、AIに代替されない人間のコア・バリューとなります。

視点を変えることは、世界を再定義すること

視点を変えるテクニックとは、単なる「逃げ」や「ごまかし」ではありません。それは、具体の世界に埋没して窒息しそうな自分を、抽象という広い空へ連れ出す「思考の自由」を手に入れるプロセスです。

次にあなたが行き詰まったとき。真面目な顔をして議論を続けるのを、10秒だけやめてみてください。そして、自分を上空30メートルから眺め、こう呟いてみましょう。

「この状況を、もし別の具体例に例えるなら?」「そもそも、私たちは何を成し遂げたかったんだっけ?」

その問いこそが、硬直した世界にひびを入れ、新しい光を導き入れる「知のハンマー」になるはずです。

コメント