伝えるのが怖くなる瞬間
Spotifyでポッドキャストを再始動しました。
半年ほど前まで、スタンドfmで70回近く配信していましたが、ふと止まってしまったんです。
理由は単純。「話すネタがない」と思ったから。
元ラジオディレクターという肩書きがあると、どうしても“上手くやらなきゃ”と力が入る。
構成や音質、トーン、テンポ──頭の中に「理想の番組像」が浮かぶんです。
でも、マイクの前に座るたびにその理想が重くのしかかって、結局、録音ボタンが押せなくなる。
不思議なもので、経験があるほど怖くなるんですね。
「これくらいの喋りでいいのか?」
「誰が聴いてくれるのか?」
そんな問いが、頭の中でぐるぐる回り始める。
そして気づきました。
伝えることって、完璧じゃないほうが良い時もある。
素人が聴かれるための“たった一つ”の条件
深夜ラジオを聴いていると、新人アーティストがたどたどしく喋る回がありますよね。
正直、放送としてはぎこちない。言葉が詰まり、間が長く、話が迷子になる。
でも、不思議と“聴ける”んです。
なぜか。
それは彼らがすでに物語を持っているからです。
「この人の曲が好き」「苦労を知っている」「頑張ってほしい」──聴き手はその人に“興味という文脈”を持っている。
だから、少々不器用でも聴いていられる。
では、素人が聴いてもらうにはどうすればいいか?
その答えは、ひとつしかありません。
人となりを出すこと。
プロは作品で興味をつくれる。
素人は“体温”で聴かれる。
上手く話すことより、「この人、なんか好きだな」と思ってもらうこと。
それが最初の関門です。
完璧な言葉は“響かない”ことがある
完璧に整った言葉は、美しい。
でも、人の心に残るのは、少し詰まったり、感情がにじんだ言葉です。
ラジオの現場ではよくありました。
タレントがうまく喋れずに沈黙したあと、ふっと漏らした一言がリスナーの心を打つ。
その瞬間、空気が変わるんです。
沈黙は“失敗”ではなく、“真実が出る間”なんですよね。
心理学では、これを「不完全性効果(Pratfall Effect)」と呼びます。
完璧な人より、少し失敗する人に親近感を持つという現象です。
人はミスを通して“人間らしさ”を感じる。
だから、つまずきも含めて“あなた”なんです。
構成よりも「呼吸」を伝える
ディレクター時代、私は「構成のプロ」でした。
出演者のトークに流れをつけ、間を計算し、音を整える。
一方でタレントは「喋るプロ」。
自分の言葉で空気を動かす人たちです。
その役割分担があるうちは、お互いの“呼吸”が生きていた。
でも今は、マイクの前に立つのは自分ひとり。
構成も、喋りも、感情も、全部ひとり。
初めて「喋るプロ」の凄さを痛感しました。
けれど同時に思うんです。
構成は人の耳を整えるが、呼吸は人の心を動かす。
言葉が整いすぎると、呼吸が消える。
聴き手が惹かれるのは、プロの流暢さよりも、素人の誠実な“間”なんですよね。
言葉の“温度”が伝わる瞬間
たとえば、「うまく言えないんですけど……」と話し始めた瞬間。
その一言に、聞き手は心を寄せます。
言葉よりも、「この人、本気で伝えようとしてる」という感情が先に届く。
これが“声の温度”です。
文字では伝わらない、喉の震え、息の深さ、迷いのニュアンス。
それこそが、ポッドキャストというメディアの最大の魅力。
だから私は、次の配信では「整える前に話す」ことをテーマにしました。
うまく言えなくてもいい。
正解がなくてもいい。
ただ、今の自分の体温をマイクに乗せる。
そう決めて録音ボタンを押したら、不思議と気持ちが軽くなりました。
自分を“正しく見せよう”とするより、“等身大で話そう”としたほうが、
声に力が宿るんですね。
完璧さよりも、誠実さを
人は内容で動くのではなく、信頼で動く。
どんなに上手に話しても、「本音がない」と感じた瞬間に離れていく。
逆に、言葉が拙くても、心から出た言葉には耳を傾ける。
それが、伝える仕事の本質だと思います。
つまり、完璧を目指すよりも、誠実さを磨くこと。
「本気で伝えたいことを、怖くても言葉にする」――そこにだけ、価値がある。
誰にも届かない1年を恐れず、
聴いてくれる人がひとりでもいれば、その人のために喋る。
それでいい。
それが、“伝える”ということの原点なんだと思います。
整える前に、話してみよう
ポッドキャストでも、ブログでも、会話でも同じ。
「うまく言おう」とするほど、言葉が遠ざかる。
だから、整える前に喋ってみよう。
録音ボタンを押して、
今日の気持ちを5分だけ語ってみる。
たったそれだけで、自分の中の“声の筋肉”が動き出す。
完璧じゃない声でいい。
その声こそが、あなたの物語の始まりになる。
そして、誰かがその声に救われる日がきっと来る。
完璧さは人を感心させる。
不完全さは人を動かす。
だから、話そう。今のままの声で。
この記事を書いた人
メディア関連企業の業務部長。ラジオ演出30年の経験を経て、
「50代からでも“1円を生む力”は育てられる」と信じて発信中。
毎朝4時起きでランニング・筋トレ継続中。
▶︎ 運営者プロフィールはこちら
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