事業が大きくなってくると、本来の仕事より「説明」「調整」「段取り合わせ」に時間を奪われるようになります。
人が増えたはずなのに、自分の負担はむしろ重くなり、意思決定は遅くなり、作業は細切れになる。
多くのリーダーはここで自分を責めがちです。
「マネジメントが下手なのかもしれない」
「組織が未熟なのだろうか」
「自分には経営のセンスがないのでは?」
しかし、この現象は能力の問題ではありません。
鍵となるのは、エントロピー増大の法則 です。
エントロピーとは「乱雑さ」を指し、
あらゆるものは放っておくと秩序から無秩序へ流れていく
という、自然界の普遍的な傾向です。
ドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウスが名付け、熱力学の中心に据えられてきた考え方です。
この流れを理解すると、
なぜ事業が大きくなるほど仕事が重くなるのか、
なぜ意思決定が鈍くなるのか、
そして、どうすれば「崩れずに伸び続ける組織」をつくれるのかが見えてきます。
ここからは、エントロピー増大の法則をさらに深く掘り下げ、
拡大期の組織が直面する“見えない敵”をどう乗り越えるのか、具体的に整理していきます。
事業拡大は「拡散」と「収束」のリズムが崩れる瞬間
組織が拡大すると失敗が起きやすくなるのは、
「拡散」と「収束」のリズムが失われるから
という一点に尽きます。
事業を伸ばすとき、私たちは「拡散」に舵を切ります。
新商品、新市場、人員拡大、プロジェクトの同時進行…。
未来が広がり、勢いが出やすいフェーズです。
しかし、拡散が続きすぎると秩序が失われ、
役割の境界が曖昧になり、判断軸が揺らぎ、
内部の情報が複雑に絡まり始めます。
これがエントロピー増大です。
本来なら、拡散の後には「収束」が必要です。
一度立ち止まり、整理し、構造を整え、線を引き直す時期。
呼吸で言えば、深く吸うためには、一度しっかり吐き切る必要があるようなものです。
ところが、忙しさが増す拡大期こそ、この「収束」が後回しにされがちです。
その結果、
・誰がどこまで決めるのか曖昧
・同じ説明を何度も繰り返す
・ブランドの軸がぼやける
・会議だけが増えていく
組織は自重で崩れ始めます。
これは怠慢でもスキル不足でもありません。
「放っておけば無秩序になる」
という自然の流れに、組織がそのまま巻き込まれているだけです。
エントロピー増大の法則とは何か?
先ほども触れましたが、エントロピー増大の法則とは
何もしなければ、あらゆるものは散らかり、無秩序へ向かう
という事実です。
クラウジウスによって名付けられたこの概念は、
熱が自然に広がるように、秩序が崩れていく方向に進む性質を説明するものです。
きれいに片付けた机が気づけば散らかるのも、
ファイルサーバーのフォルダが数ヶ月で混乱状態に戻るのも、
人の性格ではありません。
「秩序は維持にコストがかかるが、乱れは放置で進む」
これは物理の側に原因があります。
そして、この物理法則をビジネスに当てはめると、
事業が拡大するほど「現状維持のための労力」が増えていく理由が明確になります。
組織が大きくなるほど、
・管理
・説明
・調整
・承認
・報告
これら“内部の手続き”に取られるエネルギーは指数関数的に増えます。
事業が伸びているのに苦しくなるのは、
成長に伴うエントロピー(乱雑さ)の増大を舵取りできなくなるからです。
カオスは悪ではない。変化が成熟へ向かう「発酵」のプロセス
事業が拡大し、混乱が増えてくると、多くのリーダーは
「昔のスムーズだった状態に戻したい」
と強く思います。
しかし、混乱を「元に戻す」ことはできません。
これは熱力学的にも不可能な方向です。
ここで参考になるのが「発酵」というプロセスです。
発酵は、素材がいったんゆるみ、内部で複数の反応が起き、
やがて新しい風味や価値を生み出す変化の流れです。
途中だけ切り取れば不安定なのに、
時間が経つほどまったく別の豊かさが生まれていきます。
組織も同じで、
拡大によって一時的にカオスが増えるのは避けられない現象
です。
大切なのは、混乱を“元に戻す”のではなく、
混乱の先にある新しい秩序へ進ませること。
これがプリゴジンのいう「散逸構造」の考え方に近い動き方です。
組織は、カオスを一度くぐり抜けることで、
より高いレベルの秩序を生み出すことができます。
つまり、混乱は進化の入口なのです。
エントロピーと戦うための3つのアクション
ここまでを踏まえると、「崩れ始める組織」がやるべきことは明確です。
ポイントは3つです。
1. 戦う相手を減らす:選択と集中
エントロピーは要素が増えるほど爆発的に増大します。
だからまずやるべきは、「減らす」ことです。
・やめる仕事を決める
・優先順位を固定する
・成果の8割を生む2割にリソースを集める
選択と集中は精神論ではありません。
「乱雑さの増大」に抗うための数理的に正しい戦略です。
2. 不要な情報を入れない:入口に“知性のフィルター”を置く
物理学に「マクスウェルの悪魔」という思考実験があります。
粒子の動きを見極めて、必要なものだけを通す存在です。
ビジネスでも同じで、
“入れない”ほうが片付けるより圧倒的に効率がいい。
・顧客を選ぶ
・SNSのノイズを遮断する
・安易な情報を流入させない
エネルギーを浪費してから整えるのは遅い。
最初から「入れるもの」を厳選するのが、賢い経営者の戦い方です。
3. 元に戻さない:新しい秩序へ進む
混乱が続くと、人は「以前の安定」を取り戻したくなります。
しかし、元に戻すことはできません。
必要なのは、
・ピボットを恐れず事業を再構成する
・組織をゼロベースで書き換える
・古い成功パターンを捨てる
変化は恐いものですが、
混乱の先にしか次の秩序は生まれない
という現実を受け入れることで、新しい可能性が開けます。
まとめ:エントロピーと共存しながら進化する組織へ
組織が大きくなると崩れ始めるのは、
そこに関わる人間の能力ではなく、
エントロピー増大という自然の流れ によるものです。
だからこそ、
・拡散と収束のリズムをつくる
・増えすぎたものを減らす
・不要な情報を入れない
・カオスを恐れず、次の秩序へ進む
この動きを意識するだけで、
事業は“崩れる組織”から“進化する組織”へと変わっていきます。
混乱は、成長の影です。
増えてきたら、それは次のアップデートの合図。
エントロピーを理解し、コントロールしていけば、
組織はもっと強く、美しく成長していけます。
この記事を書いた人|ミライジュウ
メディア関連企業の業務部長。ラジオ演出30年の経験を経て、
「50代からでも“1円を生む力”は育てられる」と信じて発信中。
毎朝4時起きでランニング・筋トレ継続中。
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